貸金庫には何が入っているのか?
昨年世間を騒がせた三菱UFJ銀行女性行員による貸金庫事件。元銀行員としても非常に興味深い事件だった。私も新入行員時代、貸金庫の開閉を任されることがよくあった。お客さんは利用カードを記入・捺印し、開錠を依頼する。筆跡や印鑑に問題がなければお客さんと一緒に貸金庫室に向かう。そこで銀行が保管する鍵とお客さんが保管する鍵の両方で貸金庫を取り出す仕組みになっていた(※ 最近は手動でなく自動化されているところも多い)。
中には私の目の前でケースを開けるお客さんもいて、見るつもりがなくても中身が目に入ることもあったが、よくあったのは株券(昔の話なので・・)や不動産の権利証、実印や通帳などだった。ゴールドも稀に見ることがあった。貸金庫は当然、法律に違反するようなものは入れてはならない契約となっているが、何を入れるかチェックがある訳ではないのでまさにブラックボックスである。何が入っているかは入れた本人しか分からない。
貸金庫の抱える問題
今思い返すと、プライバシーに配慮してか貸金庫室には監視カメラもなかったし、今回のように管理者自身が悪事に手を染めると防ぐのが難しい。また被害者が盗まれたものを本当に貸金庫に保管していたかを証明するのが難しいケースもあるだろう。利用者の中には高齢者も多く、何をいれていたかはっきりと覚えていないと言う人も相当数いるに違いない。今回の事件ではこうした貸金庫の抱える様々な問題を露呈したが、他の銀行でも同様の事案がある可能性が高い。おそらく三菱UFJ銀行だけでなく殆どの銀行で調査や管理体制の見直しを慌ててやっているはずだ。
デジタル化時代の遺物?
三菱UFJ銀行の頭取が貸金庫ビジネスの見直しも含めて検討するようなことを言っていたが、メガバンクは貸金庫を無くしていく方向に舵を切るのではないかとみている。大きな収益を生むビジネスではないし、これからコストをかけて全店的にシステムを改修するのは現実的ではない。富裕層向けのちょっとしたサービスだったが、時代の役割を終えつつある。
これまで貸金庫に保管されていたような様々な貴重品(通帳、株券、権利証など)もどんどんデジタル化されて、わざわざ貸金庫に入れるようなもの自体が少なくなっている。金(ゴールド)も貸金庫に入れるより、購入業者で保管してもらう方がずっと安くつく。貸金庫自体がデジタル化時代において過去の遺物となり「昔、そんなものもあったね」と言われ日が来るのもそう遠くないかもしれない。